VDTを使用する事務作業者に頸肩腕障害(OCD)が多発しており、その予防は、産業保健上の重要な課題です。とりわけ、近年IT化が急速に進み、VDTが様々な分野に導入され、ほとんどの職種でVDT作業が行われ、長時間化の一途を辿っています。
医療では、診療録(カルテ)の電子化により、看護師がVDTを搭載したカートを押して病室を廻り、看護データをカルテに入力するのが日常的になり、1日3~4時間のVDT作業も当たり前になってきました。教育現場の電子化も進行し、成績、教材等が電子化され、教師も、1日3〜4時間のVDT作業も稀ではなく、慢性的な頸肩腕障害が多発しています。VDT作業の主要な健康障害は、支え無しで上肢を体幹から離し空間に保持する独特な作業姿勢によって導かれる筋・神経の疲労によって引き起こされます。このようなVDT作業中の上肢や肩の静的な筋負担を軽減するために、キーボードの前に、広いスペースを設けるか、アームレスト(腕支持台)を設置することが勧告されてきました。
ヒトの片腕の重さは体重の5~8%で,キー入力やマウス操作などで腕を宙に浮かして保持すると,腕の重さを支える頸肩の筋肉に大きな負担がかかり、VDT作業による頸肩腕障害の大きな原因となります。予防には腕の重さを支える幅広いアームレストが重要です。アームレストで頸肩腕部の負担を軽減するには、適切な幅と形状が必要です。手首だけを載せるパームレスは、不適切です。
上図は、我々の提案するマウス対応型の外付け式アームレスト(Dr.Click)です。このアームレストは,パームレストと異なり、前腕を幅広く支持し、肩甲帯や手首の負担を軽減します。特徴は、アームレストの腕載せ部が手前に張り出す点です。上腕を下垂した時の肘のポジションは、体側面の中央部にあります。そのため、上腕を下垂し体側面の位置で肘を支えるには、アームレストが机から手前に張り出すことが必要です。
■外付け式アームレスト
- 1. 幅広い
- 2. 張り出し部
- 3. 後傾し背もたれ使用
- 4. 手前に傾斜し肘が上がらない
- 5. キーボードとの段差がない
- 6. マウスをアームレスト上で操作する
もし、張り出しが無く机の前端に肘を載せる場合は、腹部が邪魔して図1の様に、上半身を前傾する姿勢になり、頸部や腰部の前屈姿勢が生じます。また、図2のように、キーボードの厚みで手首が背屈し、前腕伸筋部に負担がかかります。図3は、外付け式アームレストを使った場合の上半身の前傾を避けた姿勢を示します。また図4に示すように、キーボードとの段差がなくなり、手首の背屈を避ける事ができます。
図1. 前腕を机に密着させると上半身が前傾姿勢になる。背もたれが使えないため、腰、頚部に負担がかかる。
図2. キーボードの厚みで手首が背屈する。前腕伸筋群(長、短橈側手根伸筋)に負担がかかる。
図3. 外付け式アームレストの使用。椅子の背もたれが容易に使用でき、上半身の前傾も改善される。手首の背屈も解消される。
図4. 外付け式アームレストの使用。手首の背屈が解消される。
図5に示す、アームレストとアームレスト+マウスパッドとパームレストの3条件で、1時間のワープロ作業を行い肩、前腕の痛みを比較した。
その結果、肩痛および前腕伸筋部痛とも、パームレストに比し、アームレストで疼痛評点が有意に低いことが示された。
図5. 実験に使用したマウスパッド+パームレスとアームレスト
■アームレスト、アームレスト+マウスパッド、パームレストの3条件での1時間のワープロ作業中の肩痛の変化(Mean, SE)
■アームレスト、アームレスト+マウスパッド、パームレストの3条件での1時間のワープロ作業中の前腕痛の変化(Mean, SE)