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コクヨDr.Chair

宇土博 博士について

開発の経緯

近年のOA化やFA化の進行に伴い事務作業、機械監視・操作作業や運転作業等において長時間の座位作業(固定座位姿勢)に従事する労働者が増えており、それに伴って筋肉性腰痛や腰椎ヘルニア等の健康障害の増加が指摘されています。一般に座位作業は、下肢の負担が少ないため立位作業よりも負担が軽いと考えられていますが、骨盤の後方回旋による脊椎の生理的弯曲の減少により立位作業に比べて腰痛をおこしやすいことが指摘されています。

これまで、座位姿勢に伴って起こるこれらの健康障害を軽減するため、椅子の設計に関する様々な勧告が行われてきました。しかし、多くの勧告にも拘わらず、これまでに開発された椅子によって長時間の座位作業に関わる健康問題が十分に解決されてきたとは言えません。その背景には、単一の理想的な座位姿勢(最終安定姿勢と言う。)があることを前提とした従来の椅子の設計思想自体に問題あるように思われます。即ち、最終安定姿勢の発想からは、長時間の固定座位姿勢による腰痛の問題を解決できないと考えられるからです。

このような固定座位姿勢の問題を解決するためには、「最終安定姿勢はなく、自由な姿勢の交代を許容する椅子の設計」の必要性が指摘されています。今回、このような固定座位姿勢の問題を解決する方策として座面前傾角が周期的に変化する自動座面傾動椅子Dr.Chairを開発しました。

座位姿勢の負担について

これまで、様々な姿勢に伴う腰部負担を評価する指標として第3-4腰椎々椎間板の圧力をモニターする方法が採用されてきました。図1は、Nachemson等による姿勢と椎間板内圧の関係を示したものです。立位姿勢を100とした場合の仰臥位、前屈位(瀬尾による)、直立座位、前屈座位姿勢の椎間板内圧の変化を示しています。これによると、直立座位姿勢では立位に比べて椎間板内圧は、1.4倍大きいことが分かります。
前屈座位では、更に1.9倍に増加します。このように、座位姿勢は、腰部にとっては、決して楽な姿勢とは言えず、かなり腰部負担が大きく長時間の座位姿勢の継続は腰痛の発症の要因となります。

従来の椅子設計の問題点

これまで腰部負担の少ない椅子を設計するために様々な勧告が行なわれてきました。その設計思想の核心は、立位と同じように「腰椎の生理的な前彎を保つ」椅子が理想的な椅子であるとしたものでした。表1は、従来の腰痛予防を目的とした椅子設計の項目を示したものです。

■図1. 姿勢と椎間板内圧(Nachemson、Elfstrom)
■表1. 腰痛予防を目的とした椅子設計の項目
  • 1. 腰当て(ランバーサポート)
  • 2. サイドサポート(車のシート)
  • 3. 前後調節可能なヘッドレスト
  • 4. 肘当て(上半身の体重の支持)
  • 5. 背もたれの角度の調節性(110度位が望ましい)
  • 6. 座面の高さの調節性(作業面が肘高さになるように調節)
  • 7. 尻落ちを防ぐ堅い座面
  • 8. 転倒を防ぐ5本脚(ワープロ用椅子)
  • 9. シートの防振構造(車のシート)

このような表1に示す従来の椅子の設計はある程度、座位作業の負担を軽減してきました。しかし、このような設計にも拘わらず、座位作業に伴う腰痛の発症は十分に予防されているとは言えません。これを解決するためには、固定座位姿勢の問題を解決する必要があります。
固定座位姿勢により、腰背部の筋群の静的な筋収縮が起り、血液の循環障害による筋疲労が促進され筋肉性腰痛を発症させます。また、腰椎の固定により椎間板の栄養障害が起り、腰椎ヘルニアを発症し易くなることが挙げられます。椎間板には血管がなく、周囲の血管からの栄養分の物理的な拡散によって新陳代謝が行われています。この拡散は、姿勢の変化による椎間板の内圧の変化によって促進されます。同一の姿勢が継続すると、この拡散が障害されて椎間板の栄養障害が生じ、椎間板障害の原因となります。

自動座面傾動椅子の開発

このような固定座位姿勢の問題を解決する有効な方法は、座面を傾動させる事です。
これまで、マニュアルにより座面が傾動する椅子として、ロッキングチェアが広く使用されてきました。ロッキングチェアは、主に安楽椅子として使用され、これを作業用の椅子に使用する場合には、以下のような問題点があります。即ち、1)座面が不安定なため姿勢のバランスが取り難い、2)座面が不安定なため精密な作業が困難である、3)マニュアル傾動のため、ワープロ作業のような姿勢の拘束が強い作業では、作業に拘束されるためかえって傾動が減少するという問題です。これらを克服するためモーターによって座面が傾動する自動座面傾動椅子Dr.Chairが開発されました。

自動座面傾動椅子の特徴と効果

■図2. 試作された自動座面傾動椅子
モーターでシートの傾動角度、頻度を自由に調整できる設計。

■図3. Dr.Chairの完成形
座面の下にモーターが装備され、座るとスイッチが入り、連続的に座面角度が変化する。

図2は自動座面傾動椅子の試作機であり、初期座面角度、傾動角度、傾動サイクルを自由に設定できる設計にしてあります。これを使用して、適切な傾動条件を明らかにしました。著者らの開発した傾動シートは、コクヨ(株)より事務用のコクヨDr.Chairとして商品化され、発売されました(2004年8月)。図3は、コクヨDr.Chairの外観です。座面の下面のモーターにより、座っている間中、座面が自動的に傾動します。
コクヨDr.Chairと固定シートの比較実験では、図4から6に示すように、固定シートに比して、座面傾動により肩こり、腰痛、臀部痛、下肢痛および眠気の予防に効果が認められます。

これらの効果は、座面傾動により体幹部の微小運動が促進されるための血流改善効果と、筋肉の長さを調節する筋紡錘の刺激による、延髄の脳幹網様体刺激による覚醒効果によるものです。
この覚醒効果は、高齢者の痴呆の予防にも効果を発揮します。85歳の寝たきりと痴呆に陥る直前の老人をコクヨDr. Chairに1日2時間座らせることにより、精神機能が活性化し、痴呆の予防に著明な効果を見ています。
これらの効果により、コクヨDr. Chairは、従来の椅子の問題点を克服し、長時間座作業での肩こり、腰痛、下肢痛、むくみを予防し、覚醒効果によるパーフォーマンスの改善によりデスクワークの疲労予防と効率化に、運転作業の居眠り事故防止、航空機、車両など長時間の座位姿勢による腰痛やエコノミー症候群の予防、高齢者用の脳の活性効果による痴呆の予防など多様な応用範囲を持つものであり、今後の普及が期待されます。

■図4. 2時間座作業中の肩部痛の変化(Mean, SE)p<0.01二元配置分散分析で、2つのシートの間で有意差あり。

■図5. 2時間座作業中の腰部痛の変化(Mean, SE)p<0.01二元配置分散分析で、2つのシートの間で有意差あり。

■図6. 2時間座作業中の「ねむけ」評点の変化(Mean, SE)p<0.01二元配置分散分析で、2つのシートの間で有意差あり。



全製品ラインアップ

  • Dr.Grip
  • Dr.Move
  • Dr.Cut
  • Dr.Click
  • コクヨDr.Chair
  • 楽腰帯Relief(リリーフ)